「メジャーデビューの所信表明演説」新曲・ユースレスマシン感想


「ネバーエンディング思春期」ことハンブレッダーズ様が、また名作を生み出した。

2020年2月19日、メジャーデビューアルバムのタイトルナンバー、「ユースレスマシン」。

その歌詞は、ハンブレがこれからどんな表現を持って、世間にどんな影響をもたらしたいかを宣言する「所信表明演説」そのものだった。


この曲はメジャーデビュー作の中の一発目というポジションに置かれるべくして置かれている。

もっと言えば、アルバムのタイトルナンバーでありながら一曲でアルバムのすべてを語りつくしてしまう完全無欠の存在。さながら3割30ホームラン打って優勝に導く選手兼任監督のようなもの。アルバムの紹介に限らず、メジャーデビューで新たな音楽界に顔を出したバンドとしての自己紹介にもなっていると思う。「ハンブレダーズですよろしくお願いします。娯楽で世界を変えます」と。



ハンブレの布教ブログ(目次③参照)でも触れたが、ムツムロの作詞力はハンパではない。韻でツーステップしまくる。その韻踏みYABEEEEの要素も、ちゃんと二番のBメロで取り込まれている。


頼りのない
便りをしたためよう したたる涙を原動力に たどたどしさに宿る正しさに僕はいつでも恋をする


小学校の国語の教科書にしれっと詩が割り込んできて読ませるコーナーあったじゃん?そこにハンブレの歌詞ぶっ込みたい。

作詞でこれだけの言葉遊びができます!やります!というのもユースレスマシンで表明されている。これぞマニフェスト。



バンドとしての性格・自己紹介も随所で宣言されている。

まず一番Aメロの端から、テキパキできて要領のいいできるニンゲンの「キミ」とは違う、喜怒哀楽より無表情が得意な人間だと堂々と言い切った。コミュ力オバケとは真逆の存在だという、既成年の主張。

そしてひとたびカシオペアの美しい瞳を見れば己の醜さが醸し出される。自信なんて持ち合わせていないただの人。

自信がないのは弱さの象徴。弱いがゆえに、相対する価値観にはつい真っ向から否定してしまう。白と黒ですべてを分けたがる人の話は聞きたくないと、きっぱり言い切った。

だがそれもそう、音楽という抽象表現に正解不正解はないのだから。音楽で生きる者として、答えのないわかりにくいものから自分だけの正解を作り出す。

「生きていてそれが続けられる限り、僕らはまだまだ笑っていられるし、コロナで音楽業界に逆風が吹こうが、僕らは心から音楽を楽しんでいるから心配するな」とでも言ってるかの如く、ファンを安心させるメッセージも、所信表明には盛り込まれていた。



そんな大口叩く彼らも、日々の洗濯はコインランドリー頼みという恵まれない生活。メジャーバンドを名乗ってはいるが、生活感覚は普通の「庶民」のそれだと言いたいのだろうか。とても親近感。

しかし、庶民ながらもポジティブに生きるから、日常の何気ない喜びを感じられる幸せな人生を送っている。そして、歌にする。

曲そのものには期待せず、パッケージで買ったレコードが思いのほか素晴らしくて嬉しい。
大好きな曲がベスト盤から弾かれていると、ニワカは知らない隠れ名曲を知った気になって嬉しい。

こういった、日常で不意に訪れる小さな幸せ。共感が得られにくく、誰かに話すのは憚られるけど自分だけは確かに感じたささやかな幸せ。それを見過ごすことなく拾い上げ、ちゃんと「幸せ」として歌詞に刻み、あなたが他人と共有できなかった分我々が歌にして代弁するんだ、という考えがしっかりと表明されているように思う。



そして、そんなザ・フツウの生活をして育ってきたなら、一度はハマっただろう趣味。それが一番のサビに登場するジュブナイル(少年期の)アニメーションの劇場版を見て涙することであったり、SF名作についての議論を2chの考察スレで楽しんだりといったこと。そういった娯楽は誰しもにとっての通過儀礼だろう。

しかし通過儀礼なので、大人になった(なる間近の)人からすれば、これまで経験した多くの趣味は文字通り「過ぎ去った」もの。この先の人生に必要のないものかもしれない。


ハンブレッダーズの音楽だって同じ。ハンブレッダーズの曲が好きだ、生きる糧だと今は思っていても、次第に仕事や家庭といった新しい日常や、ゴルフ・麻雀・洋楽といった他の娯楽などに次第に取って代わられ、その先の人生に必要ではなくなるかもしれない。

それでも、ふと思い出した時に「あの頃よく聴いてたな」「懐かしいな」という感情を起こす。これこそ、心の中を「ザラつかせる」という表現が示すものではないだろうか。「覚えてる奴は同世代」「懐かしいと思った人RT」といった懐古ネタが10~20代を中心にバズるのも、心の中が「ザラついた」ことで喜びに似た感情を覚え、共有したくなるからだと思う。


そして「ユースレスマシン」で彼らは、自らの音楽をあえて「娯楽」という言葉で包んでいる。自分たちの音楽を「あってもなくてもいいもの」と捉えた上でそれで勝負する覚悟。自らの音楽にあえてハンデを与えてから音楽界に喧嘩を売りにいくスタイル。でもハンブレはそれぐらい果てしない夢を見てる方がカッコイイと思う。1,000人キャパのライブハウス埋めれたらいいやなんて話に収束しないでいてほしい。



「心の中がザラつくような一瞬を」という歌詞の意味は、おそらく2つある。

1つは、過去の懐かしい体験を歌った歌詞によって、心の中をザラつかせるという意味。
もう1つは、ハンブレッダーズの楽曲そのものを、心の中をザラつかせるものとして未来永劫残すという意味である。



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